子犬をもらいにブリーダーの家へ行くと、通された部屋の片隅にハムスターゲージに入った6匹の子犬が見えた。狭い部屋に2段重ねにされて―――。
悲劇を繰り返さないために。悪徳ブリーダーを許さない
―――2020年8月12日。犬猫の繁殖・販売業者への数値規制を巡り、環境省が取りまとめた基準案が「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(第7回)」で承認された。
まだまだ多くの課題は残るが、今回の基準には数値化できない定性的な規制も盛り込まれている。
以下具体例
- 被毛に糞尿等が固着した状態禁止
- 毛玉で覆われた状態禁止
- 爪が伸びたまま放置禁止
- 清潔な給水の確保
- 1日3時間以上運動の義務付け
この踏み込んだ環境省案に事業者側からは反対の声も上がっているが、小泉進次郎環境相は下記のように答えた。
動物のよりよい状態の確保はどうあるべきかという視点に立つという考え方に変わりはありません。後退することのないよう、しっかりと取り組んでいきます。
犬猫の繁殖・販売業者への「数値規制」 環境省案に残る二つの問題
この言葉を信じ、今後の動きに期待したい。
しかし、環境省の基準案が承認されたからと言ってすぐに現実は変わらない。犬を物のように扱い、金儲けのためだけに利用する悪徳ブリーダーは数多く存在する。
悪徳ブリーダーとは一体どのような環境で犬を繁殖させ販売しているのだろうか。
今回は、実際に悪徳ブリーダーから子犬を譲り受けた方の実体験を基に、悪徳ブリーダーの実態を伝えたい。
その残酷な行為に目を背けたくなるが、私たちはその現実を受け止め今後に活かす必要がある。ここでブリーダー選びの重要性を学んでほしい。

悪徳ブリーダーを許さない!実体験を赤裸々に告白

悪徳ブリーダーの実態を的確に把握するために、協力してくれたのは生後6ヶ月トイプードル♀の飼い主。
子犬は生まれつき排泄障害があった。成犬にならないと全身麻酔が出来ず病名の特定が出来ず、現在も対処療法の試行錯誤を繰り返している。
無数の犬の鳴き声にイヤな予感ー可愛さから引き取った子犬
某ブリーダーサイトでトイプードルを譲り受けるためブリーダーを探す。すると、相場よりも約12万円も安い27万5千円で販売しているブリーダーを発見。
- 2020年現在トイプードルの相場は39万円(ブリーダーナビ調べ)
価格の安さとあまりの可愛さから見学を決意。すぐさまブリーダーへ連絡を入れ、翌日には見学を取り付けた。
次の日。東京都から神奈川県まで足を運んだ。
犬舎は一軒家だった。シャッターが閉まった状態だというのに無数の犬の鳴き声がする。
…嫌な予感がする。そう思いながらも案内されたプレハブで、後に家族となるトイプードルを見せてもらった。
『…可愛い…!!!』
あまりの可愛さに無数に鳴く犬の鳴き声のことを忘れ即決。内金を支払い、生後2ヶ月目を待ち、迎えに行くことになった。
この時のブリーダーの対応は非常に良く、『何かあれば24時間いつでも駆けつけますからね。』にこやかにそう話すブリーダーに安心感を覚えたのだった―――。
態度急変!2時間予定の譲渡説明がたった10分!?
ブリーダーからは引き渡しの日に説明で2時間はかかるため、早めに来るように言われていた。
引き渡し当日。
予定の時間より早めに到着し、譲渡の説明を受ける。実は見学時に保険の加入を勧められていたため、自分に合った保険を探し加入していた。
恐らく提携だったのだろう。
既に別の保険に入った旨伝えると、態度は一変。契約時に説明は2時間かかると言われていた譲渡説明は、たったの10分で終了してしまった。
この10分の中には犬の様子の説明は含まれていない。聞かないと分からないことだらけなのに。
食事内容を聞いた時は、生後2ヶ月なのに『ドライフードを8~15gを1日2回※あげてね』と言われ驚いた。
『ふやかさないんですか?』と聞くと『ふやかさなくても食べるからお腹パンパンでしょ?』と言われ、モヤモヤを残したまま帰宅した。
- 生後2ヶ月の子犬の餌の目安は1日4回。子犬の消化器官の発達には時間がかかるため、一度にたくさんの量を食べると消化不良に陥る危険性がある。ふやかすかは消化機能や咀嚼力の発達の度合いには個体差があるため一概に言えないが、一般的には4ヶ月までに成犬と同じ餌を与える。
からだに異変が!病気発覚に涙が止まらない…
帰宅直後からすぐに異変に気付いた。30秒に1回のペースで踏ん張り水下痢。
便が付着するのを防ぐため、尻を拭き続けたら『お尻拭きシート』をたったの半日で1パック使いきってしまった―――。
翌日。
一向に回復しないため、病院に連れて行くとブリーダーの所での様子を聞くように言われ電話確認。ブリーダー曰く、『沢山ワンちゃんがいるから、どの子がどのウンチをしたかまではわからない』とのこと。
ここにきてようやく引き取る際に感じたモヤモヤが間違いではなかったと、確信へ変わった。
獣医師からは下痢止め・整腸剤を処方してもらったものの30秒に1回の排便ペースは変わらず、夜にはギャンギャンと泣きながら排便をするまでになった。(写真はこちら。排泄物のため閲覧注意)
あまりの量に驚きすぎて声も出ない。
排便はこれで終わらず、その後も私の腕に抱えられながらグッタリした状況で排便を続けた。
肛門を見てみると脱肛している。お腹もパンパンに膨れ上がってる!!!
これはおかしい!すぐさまブリーダーへ電話をした。
ところが電話しても出ない。何かあれば24時間駆けつけると言ったのに。数十回目にしてようやく繋がった電話は騒がしい。どうやら居酒屋にいるようだ…。
こちらが慌てて子犬の様子を伝えると『それだけ(便が)出たなら大丈夫ですよ~』と軽くあしらわれ電話を切られてしまった。
どうしていいか分からない…
子犬の様子は明らかにおかしい。一人ではどうしようもなく、夜間救急に駆け付けた。
ここで摘便と腹部マッサージを受けると驚愕!当時、体重600gのお腹の中には80gもの便※が溜まっていた。
- 人間に換算すると60kgの人の体から1度に8kgの便が出てきたのと同じ。人間の1日の排泄量の平均が200g。小さな体から体重の約13%にもおよぶ量の便が出た異常さが伝わるだろうか。
この量がたったの1日で溜まる訳がない!!
引き渡し時にブリーダーが言っていた『たくさん食べるからお腹がパンパン』は便が出ていなかっただけだった…。
後日ブリーダーにこの件を伝えると、『うちではそんな事1度もなかったし、普通の便をしてましたよ』と言われた。
…え?犬が多くて便の見分けがつかなかったんじゃないの?
不信感は強まるばかり。その横で前日あれだけもの便を出したというのに…子犬はまだ苦しそうにしている。
夜になっても苦しそうな子犬に居ても立っても居られない!夜間救急に連れて行くと、あれから更に60gもの量の便が体から排出された。
いったいどれだけ放置されてたの?
…感傷に浸かる暇もなく、獣医師の口から子犬に病気があると告げられた。
『この子は生まれつき肛門の括約筋が弱いか直腸に問題があるから排便がスムーズにいかない。手術が必要になるかもしれない。』
手術といっても排便時に痛みがでないように便を垂れ流しにするだけの手術。排便機能をコントロールできるものではない。
まだ小さいから手術は出来ないが、検討するよう言われ涙が止まらない。
こんなに小さい身体で手術して一生オムツで生活していかなきゃいけないの?なんでこんなに苦しまなきゃいけないの?
胸が締め付けられて呼吸ができない…―――
あなた神経質なんじゃない!?手術するなら犬を交換しましょうか
子犬の病気を知った次の日。翌朝にはブリーダーへ報告をした。
すると、『えー!手術なんてするの?それじゃ他の子の交換しますよ。』軽い口調で交換を言い渡された。
交換!?犬は物じゃない!!!
じゃあこの子はどうなるの?あのシャッターの中にまた閉じ込められるの?
そんな考えが脳裏に浮かび交換は出来ないと回答した。その答えを聞いたブリーダーは、
『じゃあ、どうしたいんですか?ちょっとあなた神経質なんじゃないの?排便の時にギャンギャン鳴く子なんて沢山いるわよ』このように答えてきたのだ。
怒りで今にも爆発しそうだ!!冷静に…冷静に…。気持ちを抑えるのに必死だったのを覚えている。
まずは様子を見たいからと預かりを希望してきたブリーダーへ断りを入れる。交換か預けてくれないと解決できないと言われ心配しつつも預けることに決めた。
1週間後。状況は変わらないとの連絡を受け迎えに行った。ここで見た景色を私は一生忘れないだろう…。
ハムスターゲージに子犬。身動きが取れず正面を向いている子まで―――
以前契約時に使用したプレハブに他の利用客がいた。コロナの影響もあり三密を避けるため、私は初めて一軒家の中に案内される。
通された部屋は暗く狭く、そして風通しが悪い部屋だった。そこには、ハムスターゲージサイズの小屋に身動きが取れずにいる子犬が6匹。部屋が狭いせいでゲージは2段重ねにされている。
子犬と言っても犬種によっては体が大きく、正面しか向けない子もいた。
酷い!!子犬とはいえゲージが狭すぎる!!
それに臭い。獣臭に交じって糞尿の臭いが鼻にまとわりつく。劣悪な環境での飼育だということが一目で分かった。
キャンキャンキャンキャン!
至る所から犬の鳴き声が聞こえてブリーダーの声がかき消される。後に、このブリーダーはこの狭い一軒家で約200匹の犬を抱えていると知った。
一体どのようにして200匹も抱えているのだろうか。考えただけでゾッとする。
そして、我が子を連れて帰宅したこの日から、ブリーダーからの連絡は途絶えたのである。
病院探しの日々。生後3ヶ月にして通院生活が始まる
子犬を家族に迎え入れてから3件以上の病院を回ったが、どこの病院でも口を揃えて“こんな症状は見たことない”と答えた後、必ず手術を進めてきた。
全身麻酔をして検査しないと明白な病気が分からないが、子犬である今、受けられる手術はない。それに全く排泄ができないわけでもないのに手術が必要かも分からず回答は保留のまま。
そんな中、ようやく1ヵ所の病院が内服治療を提案してくれた。そしてこの日から毎日の通院生活が始まる。
治療内容は毎日のお灸と軟便化剤の投与。少しずつでも自力で排便できる回数は増えてきた。それでも便が溜まるので、定期的に摘便する必要がある。
今の治療に落ち着くまでは、排便したくても出来ず肛門が腫れ上がり、痛みを伴うため力めず負のループだった。その時を思えば、1mmくらいは苦しさを減らせたのだろうか…。
今後も私たち家族は一生彼女の疾患と向き合っていくことになるだろう。それでも…私は出来る限りの事しか出来ないけど、少しでもHappyに過ごせるよう努力していく―――。
獣医師からのアドバイスを募集中
子犬は現在も対処療法を試行錯誤で繰り返しているが、根本的な治療ができていない。飼い主自身も日々、手さぐりでベストな方法を探している。
これを読んだ獣医師や同じ症状の犬を飼っている方が居たらアドバイスをお願いしたい。些細なことでもヒントになれば子犬の状況が変わるかも知れない。
現状が少しでも良くなりますように…そう思いながら祈る。
優良なブリーダーを見極める。今回の話から学ぶこと
今回協力してくれた子犬の飼い主は、有名なブリーダー検索サイトから口コミを見てブリーダーを選んでいた。実際に教えて貰ったサイトでブリーダー名を検索してみる。
総合評価5点中4.92点。口コミ数は約250件あることを考えると高評価だ。しかも口コミの大半は、『親切・アフターケアもしてくれる(と言った)・子犬の体調管理をしてくれている』と寄せられている。
そこに愛らしい子犬の写真もあわせて投稿されているのだから…誰が悪徳ブリーダーだと思うだろうか。
(編集部)無邪気な購入者の口コミに怒りの矛先が変わってしまいそうな気さえしました。
購入者は悪くない。悪いのは全てブリーダーだ。それでもここに写る可愛い子犬が皆被害者で、狭い檻の中から救い出された奇跡の1匹だと思うと、素直に『可愛いね、良かったね』と思えないのだ。
事実を知らない購入者は、また機会があったらそのブリーダーを頼るだろう。友人にもブリーダーを紹介してしまうかも知れない。
悪徳ブリーダーを意識している人でも、口コミの良いブリーダーに騙されて真実を知らずに、結果的に悪徳ブリーダーの活動の手助けになっている場合もある。
犬は喋れない。我々は過去にあったことを知れないのだ
これは口コミ4.9点の同じブリーダーから譲り受けた子犬だ。

お腹が可哀想な程に膨れ上がっている。
契約をした当時を振り返ると親犬を見せてもらったが、環境の異様さに親犬の姿が記憶に残らなかったという。
親犬がいる犬舎へ行くと犬が一斉に吠えまくりブリーダーの声が一切聞えず、臭いが凄まじく劣悪な環境だった。なによりも吠え続ける犬が可哀想で見てられなかったと話す。
このようなことからも、口コミサイトは1つの基準であり、鵜呑みにしてはいけない。全てあなたがシッカリと見極めていかなくてはいけない。
ID管理されているサイトだと誰がどの口コミを書いたかブリーダーにバレてしまう。書きたくても『個人特定を恐れて書けない人がいる=悪い口コミが目立たない』ということも覚えておいてほしい。
優良ブリーダーを探し契約する。それがあなたに出来ること
優良ブリーダーは”ビジネス”としての繁殖だけをしていない。深い愛情をもって家族一員として、そしてその子が幸せになることを願って繁殖をしている。
命を軽く扱うことはないから捨て犬・殺処分になることはない。
そして何より、家族として迎え入れる側にもメリットがある。
優良ブリーダーが繁殖した子犬は、遺伝性疾患に注意をしているから健康的である場合が多い。
親兄弟とのスキンシップも十分に触れ合い、社会性も身に付いている。性格も愛情を受けて育ったから情緒安定している。
良い環境で育った子犬は、家族や社会に愛される犬になりやすいのだ。
具体的に優良ブリーダーを見極める際のポイントは現役ブリーダーに取材した記事にまとめている。この記事ではブリーダーの見極め方から、悪質・良質ブリーダーの育てた子犬の違いまで細かく紹介。
時間のある時にジックリ読んでブリーダー選びの参考にしてもらいたい。
繰り返しになるが口コミを鵜呑みにせず、自分の目で見て感じ、確かなものだけを信じてほしい。何か1つでも違和感や不信感があれば、その勘は大抵当たっていると思っていい。

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