———無理のない殺処分ゼロを目指して。
動物愛護活動に関心を持ち、高い目標をかかげながらペット事業を盛り上げ「ペットたちとのより良い暮らしをサポート」している縁の下の力持ちにフォーカスを当てる。
普段は語ることのない動物愛護活動に対しての想いを取材をしながらまわるインタビュー企画「SHARING STORY」。読者のあなたとシェアしたいお話。
今回はドッグフード・ココグルメを販売している株式会社バイオフィリアの代表、岩橋洸太氏のストーリーをお聞きしました。
動物の幸せから人の幸せを
株式会社バイオフィリアの主力商品である「ココグルメ」は、代表の岩橋氏が愛犬を2頭立て続けに病気で亡くしたことをきっかけに始まったサービスだ。
人間と同様に「食」は動物の健康に最も大きな影響を与える1つではないか。
愛犬が亡くなる際、苦しそうに息をする姿を見ながら「もっと何かしてあげられることはなかったのか。」この行きつく先がフード開発に繋がった。
———2021年5月11日。
株式会社バイオフィリアは新たな試みとして、ペットフードロスを減らすプロジェクト「WAN I NYARU food project(わににゃるフードプロジェクト)」を開始した。
そこで今回、岩橋氏の動物愛護への熱い想いをお聞きした。幼少期から変わらず求め続ける「世界を変えたい」気持ちとは何か。動物愛護活動が「生物としての本能」とまで答えた彼の核心に迫る———。
会社設立のきっかけ

(編集部)初めまして。本日はよろしくお願い致します。まず初めに簡単な自己紹介と「株式会社バイオフィリア」設立のきっかけを教えてください。
株式会社バイオフィリア創業者(代表取締役・CEO)の岩橋洸太(いわはしこうた)です。よろしくお願い致します。
私が会社を設立するきっかけは幼少期まで遡ります。幼少期に動物に対し問題意識を芽生えさせる3つの経験が、大人になった今も課題となり、結果起業に繋がりました。
【幼少期の3つの経験】
1. 犬を飼育
犬を大切に思う→他の子もこの子と変わらないはず→他の子がひどい目にあってるのは自分の子がひどい目にあってるのと同じでとても辛い
2. 2ちゃんねるの猫の虐殺事件
(猫の名前で調べれば今も出てきますが、ここでは割愛します)
3. 捨て猫を拾った経験
紆余曲折あっていなくなってしまう→保健所に連れてかれた可能性あり→自分のせいだと後悔→その分他の子に何かしなくてはと決意
大学生の頃からは漠然としつつも「ビジネスで解決したい」と思い始めます。それが社会人になり、IPO準備企業の社長を目にする機会を通し、想いが具体化していきました。
———23歳の夏、本格的に起業を決心します。
ビジネスで社会課題を解決する先人を目にし、刺激を受けたことがきっかけです。特に、「ミドリムシで世界を救う」株式会社ユーグレナの出雲社⻑には大変刺激を受けました。

———前職を退職した後、株式会社バイオフィリアを共同で創業します。創業者は私と矢作裕之(やはぎひろゆき)。
彼は高校の同級生。
偶然カフェで再会し、私はやりたいことがあるけどサービスが作れず、彼はエンジニアでサービスが作れるけどやりたいことがまだなくて、お互いの思いとスキルが合致し株式会社バイオフィリアを立ち上げました。
ココグルメ誕生秘話

(編集部)株式会社バイオフィリアの主力商品はココグルメとのことですが、こちらの商品開発に繋がった理由を教えて下さい。
2017年8月の創業後、不幸な動物をなくすためにと幾つかのサービスを立ち上げましたが、事業的に上手くいかない時期が続いていました。
その間に、飼っていた愛犬2頭が立て続けに心臓ガンで虹の橋を渡ってしまって。…特に、最後の日は一日中苦しそうに呼吸をしていて、みているこちらも辛くなる程でした…。
(編集部)私も愛犬を病気で亡くした経験があるので、その辛さが分かります。苦しそうな姿を見る度に、何度変わってあげたいと思ったことか…。
…辛いですよね。私も愛犬が亡くなってからは、後悔の日々を送りました。

もしも起業をせずサラリーマンとして過ごしていたら、貯金もあって百万円以上する高度医療を受けさせて長生
きできる可能性があったのでは?
不幸な動物を救うという理想を掲げながら達成できていないし、自分の子すら守れないのか…
本当にこれでよかったのか———。
この時、動物全体への博愛も大事だけど、うちの子に対する1:1の愛情も大切だと改めて気付きました。
ペットロスを経験し一番辛かったことは亡くなったことそのものではなく、「何もしてあげられなかった」後悔からくるものだと思い、他の人にはこの様な思いをして欲しくないとドッグフード作りに専念しました。
(編集部)何故数あるペット商品の中から、ドッグフードに決めたのですか?

犬も人間同様に食が一番健康に影響すると考えたからです。2頭とも同じ病死には何か原因があると思ったことから、ドッグフードについて調べる機会が増えました。
ドッグフードには悪い噂も多くあり、「日本に良いフードがないなら自分で作ろう!」そう思い、うちの子に自信を持って食べさせてあげられるフードを目指して開発した結果、ココグルメが誕生しました。
わににゃるフードプロジェクトって?

(編集部)ココグルメでは殺処分ゼロを目指したプロジェクトを開始したとのことですが、どのようなプロジェクトかご説明頂けますか?
プロジェクト名は「わににゃるフードプロジェクト」です。食事がより多くの人と動物たちを繋ぐ「幸せのフード」となってめぐっていくことを願い「ワン・ニャン、輪になる」という意味が込められたプロジェクトです。
(編集部)実際いろいろな保護犬を見てきましたが、食事はやっぱり大切だな~と思う出来事がたくさんありました。食事1つで、見間違える程毛づやも良くなりますよね!
そうですよね。人にとっても動物にとっても食事は健康と幸せにおいて最も大切ですからね。
———元々寄付は構想として考えていたことですが、私の思いとお客様、弊社、保護団体、わんちゃん達全てが幸せになれることだと思って始めた方法でした。
お客様にとっても、自分の子のためのご飯が他の子のご飯になると知って寄付してくださる方も多いんですよ。フードロスも減らせて、保護犬への命を救うごはんの寄付を増やせるので皆ハッピーですよね。
さらにこのプロジェクトは社員メンバーの皆が主導で立ち上げてくれたもので、保護に関心のある仲間が増えてきたことの象徴でもあるので、嬉しく思います。

(編集部)実際に動物保護関連団体に寄付した際の様子を教えて頂けますか?
ココグルメをいくつかの団体さんに寄付させて頂きましたが、単に「フードを寄付した」以上の出来事として捉えていただき、嬉しい反応が返ってきました。
食に悩みを持った子の助けになる点、美味しいご褒美の食事で楽しみになった点の 2 点です。
そのうち2つの団体さんのコメントを紹介させて頂きますね。
はーとinはーとZR様


今腎不全の子が2匹いて、ご飯を食べてくれなかったのが、ココグルメを食べてくれていて、本当に凄く助かって
います ありがとうございます。※保護の子にも食に悩みを持っている子がいて、その助けになった
栃木のわんにゃん会様
引用元:わんにゃん会のご案内より一部抜粋
2月14日バレンタインデー手作り以上の愛情をココグルメ様からフード150g60袋ご寄付頂きました。ウェットフードなので先ずは長年一緒に暮らした老犬達 沙也加 黒甲斐犬カイ 大きな体のウシ にプレゼントしました、予想はしてましたが早食い競争でした。
ココグルメの目指す“殺処分ゼロ”について

(編集部)意地悪な質問です。ココグルメが目指すアニマルウェルフェアに基づく殺処分ゼロの目標に「飼い主の皆様がワンちゃんを家族として大切にする」と書かれていました。
大切に思えば思うほど、飼育放棄もその分少なくなる、また、ワンちゃんが健康になって長生きしてくれることになれば、新しいコを迎えることも少なくなる、その様にして、CoCo Gourmet(ココグルメ)を提供していくことが、最終的には殺処分数を減らすことにも繋がってくると信じています。
引用:WAN I NYARU food projectより一部抜粋
(編集部)昨日までベタベタに甘やかしていた人でも、お子さんがアレルギーを発症したり、引っ越しなどを理由に我が子(犬)を手放す人をたくさん見てきました。大切に思っていても飼育放棄する人はするのではないでしょうか。
…ここに関しては「大切にする」の定義を何にするかによって変わってくると思います。例えば私は絶対に捨てないし、保護活動をされている方も絶対に捨てない。
恐らくですが「大切にする」の程度や種類に関して人によって開きがあるのだと思います。例えば今回の一例で出た方々は、自分が動物の命そのものだけではなく、
動物と自分との関係性
という限定された範囲の中で、その関係性が良好であるという前提の中で、動物を大切にしていると解釈しています。そのため関係性が崩れ、大切にする領域から動物が外れてしまい捨ててしまう結論になった———。
色々な形はあると思いますが、大枠としてはこういうことだと思います。
でも、私や保護活動の方々や鈴木さん(編集部)もそうですよね、動物の命そのものを大切にしています。例えその動物を飼えなくなり、心地よい関係性が崩れてしまおうが、病気になって見た目が可愛くなってしまっても見捨てません。
自分とは関係が切れてしまっても、この子はずっと幸せに過ごしてほしい———。
そう願い最後まで責任をもって添い遂げると思います。…これは煩悩だらけの人間からはかけ離れていて、仏のような心にも聞こえますが、親子の愛情にもそういう面があるのでそこまで不自然ではない話だと思います。

(編集部)更に嫌味な質問をします。中には犬が可愛すぎて多頭飼いをし、結果として多頭崩壊になるケースもあります。1頭を大切にしていても新しい子を迎える(交配して増える)方もいるのではないでしょうか。
例えば、保護のし過ぎで多頭崩壊になったケースの中には、大切にすることの是非よりは「博愛の精神と知識・思考とのバランスが保てていなかった」原因があると考えています。
————私の好きな小説にこのような言葉があります。
If I wasnʼt hard, I wouldnʼt be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.
(厳しい心を持たずに生きのびてはいけない。優しくなれないようなら、生きるに値しない)
大切にすること自体には悪い側面はないと思っています。
ですが、大切にするだけではダメで実際に命を救う計画性や行動力も必要になってくる。この例は実現可能な範囲を考えられずに崩壊してしまったのであって、 大切にすることそのものが悪かったわけではない。
ただ勘違いをしてはいけないのは、「多頭崩壊を責めることは誰にもできない」と個人的に思っています。
「多頭崩壊をするのは良くない」 これは頭では分かります。ただ、当事者として実際に目の前に救える命があった時に、 今にも消え入りそうな命を見捨てることは、 身を削る様な思いをすることなのだと思います。
もちろんその子の命を救える様に最後まで考えることは非常に大切ですが、 その行動や心自体は尊いものだと私は思います。悪いのは多頭崩壊をした人ではなく、 社会の仕組みが悪いだけではないかと。

(編集部)次に、殺処分ゼロに向けて具体的にどのようなお考えがあるか教えてください。
私の構想では時間軸を分けて殺処分の解決を考えています。
短期:保護活動や寄付活動で目の前の子たちを救う。
中期:保護犬・猫の譲渡の数を増やして、譲渡をメインの飼育経路にする。
長期(〜10年):ビジネス・お金の力で生体販売市場の仕組みを内側から動物人間双方に適切な形に変える+法律を変えて強制力を持たせる。
超長期①(40〜100年):動物を好きな人しかいない世界にして、人が自ずと動物を救う世界にする。
(超⻑期②:完璧な犬・猫のロボットを作り、人の都合で生まれる動物がいない世界にする。)
先ほど話題に上がった「飼い主の皆様がワンちゃんを家族として大切にする」本質は、この超長期①の意味で申し上げました。
未だに殺処分は無くなりませんが、データ上件数は徐々に減ってきています。減少の多くは保護団体やボランティアの方のご活躍によるところが非常に大きいですが、これは動物を愛する人がいるから動物が救われていることの証左です。
動物愛護法の改正の勉強会等に参加すると団体の方の痛切な思いが伝わってきますが、 彼らの様な人が増えれば、より不幸な動物が減っていきます。
…では、動物を好きになる人とそうでない人の違いは何か、 どうすれば好きになる人だらけの世界になるか、 起業をする時に必死に考えたのですが、 その時に巡り合ったのが、会社名にもしている「バイオフィリア仮説」でした。
(編集部)バイオフィリア仮説ですか?
はい。バイオフィリア仮説は 「人間が自然と動物を愛するのは生得的、すなわち生まれながらの本能だ」 という考え方です。
誰しもが動物を愛することができる、そうしたい本能を持っている。 それなのに嫌ったり、虐待をする人がいるのは後天的な理由によるものだと考えました。
実際に私は幼少期の幾つかの経験がきっかけで動物をとても尊いものだと感じていますが、 もしも、幼い頃に犬に噛まれたり、猫に引っ掻かれたりして、一歩間違っていたら 動物を憎んでいたかもしれません。
また、学説としても幼少期に動物に触れた経験はその後の動物に対する価値観に大きな影響を与える、 という記載を目にしたこともあります。その様な考えで動物を大切にする人が増えてほしい、 と発言しました。
(編集部)最後に一言お願いします。
私にとって動物愛護活動とは「わたしたち生物としての本能」。この寄付活動は本当の本当に初めの一歩ですが、 これからも長期的な解決に向けて人生をかけていきます。
幼少期の経験から常に高い意識を持ちながら、動物愛護活動に励む岩橋氏。その結果が創業に繋がり、次のステップ・また次のステップへと地道に「殺処分ゼロ」を目指していた。
動物を大切にする人が当たり前の世界になり、不幸な犬や猫が増えないよう飼い主側の責任も変わっていけたら良い。まずは「1:1の愛情」から。1人1人が我が子を思いやれば、必然的に不幸な子が減ると願って。

株式会社バイオフィリア CEO 岩橋洸太(いわはしこうた)
1989年生まれ。
幼い頃に不幸な動物の話に心を痛め、世界を変えようと決意。
2012年慶應義塾大学経済学部卒業。
2012年SMBC日興証券株式会社入社。
公開引受部に配属され4年半に渡って未上場企業の
上場準備支援業務(公開引受業務)に従事。
メイン担当者としてIPO3件、市場変更1件の実績。
同社を退職後、2017年株式会社バイオフィリアを共同創業者として設立。
代表取締役CEOに就任。
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