トリミングサロンは「大切な我が子に刃物をあてて毛をカットしてもらう場」である。
鋭く先の尖ったハサミやバリカンで「動物である犬」をカットしてもらうのだからケガや事故が起こって当たり前とすら思う。犬はどんなに利口でも人間ではない。
何が起こるか分からないのだ。
―――SNSでの情報発信が当たり前になった今。トリミングサロンで虐待を受けた話や、トラブルに見舞われたなどといった内容が目に飛び込んでくることが増えた。
「お腹にアザを作って帰ってきた」「サロンから帰って来てからずっと震えている」「足をひきずって歩く」など。
これらの原因が虐待なのか事故なのかを見極めないと大事故に繋がる可能性もある。
今回、この記事を書くために多くのトリマーへご協力頂いた。話を聞けば聞くだけ、トリミングサロン選びは難しいと思ったのが正直な感想だ。
理由は、客側から見ると「理想のトリマー像」に見えるようなトリマーでも、見えないところでは虐待まがいなことをしているケースもあった為。
結局のところ、人間は接客態度で騙せる。犬は喋らないから暴行もバレないという訳だ。
大切な我が子を守るために。笑顔で「いってらっしゃい」と言えるサロンを見つけるために。今回は、トリマーに聞いたトリミングサロン選びのポイントを紹介していく。
事故から学ぶ。トリミングサロン選びの重要性

2020年5月20日。兵庫県宝塚市でプードル犬のティファニーちゃんが、トリミングサロンでカット中に事故に遭い亡くなった。死因は首から喉にかけて出来た傷のため。
トリマー曰く「カット中に伏せをした(際に切れた)」と述べたようだが、この事故は不可解なことが多い。
傷口は食道まで到達し切断されており、当時ティファニーちゃんを受け持った病院は「相当な力を込めて損傷が起こっている」と答えている。
―――トリマーは口を固く閉ざし、切ってしまった理由や状況を詳しく説明しないため、ティファニーちゃんは手探りで3度の手術を行う結果となり命を落とした。

このトリミングサロンは「優しいお兄さんがいるサロン」と近所で言われていたそうで、病院が隣接していることもあり、飼い主は気を許してしまったという。
蓋を開けたら、事故を起こしたトリマーが虐待を繰り返し客へ謝罪をすることも多いサロンだったとのこと。病院にはトリマーがケガを負わせた子たちのカルテもある。
これは決して他人事ではない。
最初から最後まで自分の目で見届けていなければ、どんなに優しい笑顔で接客してくれるトリマーだったとしても安心してはいけない。
大切なことなので何度も言うが、自分の目の届かないところで「刃物を使って我が子をキレイに仕上げてもらう場所」が、トリミングサロンである。
刃物をあてる場所だからこそ、信頼して預けられるトリミングサロンを探してほしい。
あなたほど、我が子を大切にできる人はいない。
トリマーがどんなに犬好きでも、あなたが我が子を想う気持ちには叶わない。大切な我が子を守れるのは、あなたしかいないのだ。
“カットが上手”って何が基準なの?
トリミングサロンの口コミを見ていると「ここはカットが上手です!」などと言ったコメントを見かける。このカットが上手って一体何が基準なのだろうか。
- 時間通りに仕上げてくれる
- 自分の理想通りに仕上げてくれる
- カット面がキレイでゲジゲジしていない
恐らく、こういった仕上がりの部分が「カットが上手」になるのだと思うが、犬の気持ちに立った時…果たしてカットが上手かは疑問が残る。
- 時間通りに仕上がった=たくさん我慢させられた
- 理想通りに仕上がった=老犬で毛が生えにくい(本当は切りすぎ)
- カット面がキレイだった=無理やり押さえつけられて痛かった
こんなケースもあるかも知れない。
仕上がりが自分の理想通りだったからカットが上手とは限らない。それならば、多少ガタツキがあっても犬がストレス最小限で仕上げてくれるお店が「カットが上手」だと考える。
トリミングサロンに通っているのは、自分ではなく“うちの子”だ。言葉の喋れない我が子と同じ目線に立って、今一度カットが上手の基準を考え直してみてほしい。
トリマーに聞く!トリミングサロン選びの4つのポイント

トリマーに聞いた「トリミングサロン選び」のポイントを4つ紹介するが、ポイントを伝える前に1つ伝えておきたいことがある。
それは、どんなに良いトリミングサロンでも多少のケガは防げないということ。動物を扱っている以上、ケガを無くすことは出来ないから、「ケガをさせるサロン=悪いサロン」と判断してはいけない。
雑誌に載っている有名なトリミングサロンや、テレビやネットで名前の知れているカリスマトリマーであっても、ケガをさせたことがない人は存在しないだろう。いたとしても一握りだと思う。
しかし、ケガが意図的なのかは見極める必要があるので、ここでポイントを学んでもらえたら嬉しい。
1.自分の足で入店させる
小型犬だと抱っこをして入店する人が多いと聞くが、抱っこをして入店すると震えだしたり、攻撃的になる子もいるという。これは飼い主に抱えられていることで起きている場合もある。
飼い主側としても、抱っこしていると震えや怯えをダイレクトに伝わってくることで、実際は虐待がなくても「何かされているのではないか」と不信感を抱く原因になりかねない。
そこで、トリミングサロンへ行く時はリードを繋ぎ地面におろして自分の足で歩かせる。トリミングサロンの外から自然な流れで入店させた時の反応を見ると良い。
お散歩形式で入店した時に、喜んでトリマーに飛びついて行ったり、自ら率先してお店に入っていく姿が見れたら安心に繋がると思う。
性格によっては、あからさまに怖気付く子もいるだろうが、普段との違いを察知できるのは飼い主のあなたしかいない。元々こうなのか、普段よりも震えてるのか。こういった点が判断基準となる。
2.清潔感はあるか
店内は掃除が行き届いているか、特に個人経営の自宅兼トリミングサロンはこの点をよく見てほしい。
商業施設に入っているチェーン店に比べて、体制や従業員数が少ないことが多い為、掃除が行き届いていないまま開店している場合もあるからだ。
長年経営しているサロンだと、換気や掃除をしても犬臭さが消えないこともある。こればかりは仕方のない事だが、その中でも「臭すぎる」「汚すぎる」「ハサミが錆びている」など、明らかに汚いお店は利用しないようにする。
便利なお店こそ要注意。
送迎付きのトリミングサロンを予約をしたら、1度も足を運ばずに何年もリピートする方もいる。ネットだけの口コミで判断して店舗を選び、店を見ずに通うのはマズイ。
一度は必ず「自分の目で」店内を観察するようにしよう。
3.ガラス張りであるか
ガラス張りのお店は犬が飼い主をみて興奮したり、緊張したりすることもあるため、賛否両論ではあるが「虐待をしている店」かどうかを見極めるのには1番効果的ではある。
何故なら、ガラス張りなら犬のカットしている様子を見ることが出来るから。
トリマー達は「緊張するから見られるのは好きじゃない」と答える方も多かったので、長時間見続けるのはやめてあげてほしいが、初利用時や、あえて仕上がり時間の前に行き(虐待がないか)抜き打ちチェックも可能だ。
ガラス張りじゃないお店より「ガラス張りのお店」が虐待は減るという。どこで誰に見られるか分からない心理が働くのではないかと思うので、ガラス張りのお店をサロン選びの基準の1つにしても良いだろう。
デメリットも当然ある
カット中我が子が飼い主に気付いて喜んでしまったりすると、カット中思いがけない動作でケガに繋がることもあるという。
様子を見れるからこその事故もあることから、我が子を興奮させない様、行動にも注意を払いたい。
4.犬ともコミュニケーションをとるか
今回話を聞いていると「ここのトリミングサロンは良さそうだ」と思わせてくれたお店全部に共通していたのが、犬とのコミュニケーションを大切にしているお店だった。
具体的には、
- 「今から体洗うね」など話しかけてくれる
- 些細なことも犬の特徴や癖を覚えている
- 犬の嫌がることはせず、犬の気持ちを考える
など。話しかけているかどうかや、犬が嫌がることをしているお店なのかは初見では判断がつかないが、何度かお店をリピートしていればある程度判断できるようになる。
お散歩形式の入店で、犬が喜んだり尻尾を振ったりした場合は、「犬にとって心地の良い環境である=トリミングの時間に大切にされている」と判断できるだろう。
感情表現は性格にもよるため、犬の行動で100%判断できることではないが、こうした表情の変化にも注目しておきたい。
犬を大切に想うトリマーであれば、些細なこと(家族しか気づかないような癖)も見ていることが多いので、犬とコミュニケーションを図るお店かどうかはこういった点からも判断できる。
え、うち子のせい!?しつけをキチンと見直そう

ケガの理由はトリミングサロンだけが悪い訳じゃない。実は、あなたのお子さんが「扱いにくい犬」である可能性もある。一つ例をあげて紹介しよう。
異食癖(拾い食い)が酷い犬の話
拾い食いの癖が尋常じゃない犬がいた。
目につくものは全て口にし、丸呑みする癖がある。カット中意地でも自分の毛を食べようとしたり、シャンプー中はシャワーをガブ飲み。泡立てたシャンプーすらも食べたがる。
そのため、この子が来る時はいつも開店・閉店時に行う掃除+床の拭き上げと、ちょっとした大掃除をしてからの受け入れをしていた。
その日のカットは無事に終えて、お迎えに来た家族へ引き渡したが、引き渡した直後にご家族からお怒りの電話が。
この店の衛生面はどうなっているんだ!うちの子の糞から大量の毛が出て来たぞ!!!
トリマーが目を離した隙に、どこかから見つけてきた毛の塊を食べてしまったようだった。お店では苦しむ様子もなく、元気に遊んでいたとのこと。
結局飼い主の怒りは収まらず、今まで使った時間と金を返せ!と怒鳴り散らすので、理由を言っても火に油を注ぐだけと判断したトリマーは返金に応じた。
噛み癖が酷い犬の話
あまりの噛み癖にしつけを放棄し、犬の機嫌に合わせてしまう家族がいた。凶暴で噛みつく時は本気噛み。飼い主が、自分の我が子すら怖がる始末。
そんな子の顔をカットする時、トリマーが血だらけになりながらも、犬にケガをさせないように気を付けてカットをしていた。それなのに、犬がハサミに噛みついた!!
その結果、舌が切れ飼い主は大怒り!ハサミは使い物にならなくなった上、何度も頭を下げても許して貰えない。最終的にそのトリマーは「自分の力量不足だった」と泣いてトリマーを辞めてしまった。
しつけ不足がケガに繋がるケースも
このように、しつけ不足がケガに繋がるケースもある。
ケガに繋がるケースは噛み癖や異食癖だけじゃない。普段から落ち着いた行動を取れない犬なども要注意だ。
「トリミングサロンでケガをした」「トリミングサロンで体調を悪くした」このような報告を受けた時に、闇雲に怒るのではなく、何が原因でこのようなことが起こったのかをキチンと把握する。
例で挙げた異食癖の犬に関してトリマーは、「異食癖を治した方がその子のためだとアドバイスをしたかったけど出来なかった」という。
この飼い主は話を聞かなかったせいで、今後の改善策を考える機会を失った。=今後利用するトリミングサロンでもケガや事故に繋がる可能性がある。
トリミングサロンを一方的に攻撃するのではなく、うちの子に問題がなかったかを冷静に判断する必要もあると覚えておいてほしい。しつけ不足でのケガはトリミングサロンだけを責められない。
もしもの時は―――

「このお店怪しい…」
トリミングサロンから帰ってきて、我が子が元気なく過ごしたり、毎回ケガを負って帰ってくる。一体どうして…?
話を聞いてもはぐらかされたり、中の様子を探れない場合の最終手段には「小型盗聴器」を利用すると良いだろう。
例えば、お散歩バッグやキャリーに忍び込ませて、うちの子と一緒に預かってもらったり、ハーネスや首輪に工夫して取り付けてみたりなど。
「盗聴器」と聞くと、犯罪のような気になる方もいると思うが、幼稚園や介護施設などの虐待問題の発覚は忍び込ませた盗聴器のおかげで発覚していることも多い。
盗聴器を使いたくなる位のお店であれば、利用を止めることが1番だと思うが、やむおえない事情がある時は小型盗聴器と覚えておこう。
安心して預けられるトリミングサロンを探そう

今回、トリマー協力の下、トリミングサロン選びの重要性としつけ問題を紹介した。
どんなに犬が賢いといってもケガを100%防ぐことは難しい。しかし、そのケガが虐待によるものであれば飼い主が未然に防げる悩みとなる。
大切なことなので何度も言うが、トリミングサロンではハサミやバリカンが犬の体に直接あたる。大切な我が子に刃物があたる場所だからこそ、
このサロンなら大丈夫
そう思えるトリミングサロンを見つけ出すことも、飼い主の責任だと言えるだろう。
そして、ケガをしたから悪いサロンと決めつけずに、ケガをした時は「うちの子に問題はなかったか(しつけは出来ているのか)」を冷静に判断するようにしてほしい。
今回伝えたいことは、ケガをする=悪いのではなくて、意図的にケガを負わせるサロンを選んで欲しくない気持ちが込められている。この記事でサロンを見直すきっかけとなったら嬉しい。
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